Interview3

DUB MASTER X スペシャル・インタビュー


レコーディング、ミキシング、ライブPAサウンドに渡って Apollo を使いこなしているという DUB MASTER X 氏。
柴咲コウ "Ko Shibasaki Live Tour 2015” のライブツアー現場にお邪魔してお話を伺いました。

- UAD-2 / Apollo は、いつ頃から導入されていましたか?

まだ Apollo が発売される前、PCIe モデルの UAD-2 SOLO を試しにレコーディングのミックスに使ってみようかってところかな。試したらあまりに良かったのですぐ UAD-2 Satellite を導入したんですよ。その頃、旅先でミックスもしなければいけなくなってきていたから MacBook Pro と持っていた RME のオーディオインターフェイスにイヤホンを繋いでホテルや移動中にミックス作業していた。そうこうしているうちに Universal Audio からサンダーボルトで繋がる UAD-2 内蔵のオーディオインターフェイスが出るって聞いてまずは自宅常設のオーディオインターフェイス兼 UAD-2 プロセッサとして Apollo QUAD を導入した。ラック1台で全部足りるからレコ—ディングからミックスまで使い倒していましたよ。

- 導入が非常にスピーディーですね。UAD-2 / Apollo のどんなアドバンテージから判断をされましたか?

まず全てのUADプラグインが非常に良い質感だと思った。有名どころの UREI 1176、NEVE 33609 なんかのアウトボードや、NEVE、API なんかのコンソールをいじっていた時の音の変化は身体が覚えていたから、実機と同じ様に掛かるUADプラグインは当時の感覚のまま使うことができたんだよね。それまでのアナログエミュレーションのプラグインというのは、見た目は似ているけど実機と同じ様にいじってもスレッショルドが引っかかる感じやリダクションが掛かってる感じなんかが随分違っていた。これは僕だけじゃなくて実機を使っていた人はみんな言っていたことだけど、UADプラグインは本当にアウトボードの実機と同じ様に掛かる。「そうそう、こんな感じで掛かったよね」って思い出しながら使っていけたんだよ。

- Apollo は、ライブサウンドでもすぐに使い始めましたか?

UADプラグインをレイテンシー無く使えるならスタンドアローンアウトボードとして使えるかな?ってピンと来たけど、当時はまだ Apollo コンソールの自由度が低かったから難しかった。PAでも使うようになったのは新しいConsole 2になってからかな。8系統のダイレクトアウトと2系統AUXがあるからここぞ!と言うチャンネルを優先すれば賄える。実際に現場で使かってみたらあまりに感触が良い上にレイテンシーとかまったく気にならない。とにかくコンパクトで楽。楽なだけじゃなくて性能が伴っているのが何よりいいね。

- Apollo を使う以前、PAの現場でスタジオアウトボードを使っていましたか?

僕の場合はよほど特殊なものじゃなければ持っていくことはなかったね。ツアーで回るPA屋さんにオーダーすると持って来てもらえるけれど、その時々の現場の制約もあるのでそれはそれ、これはこれ、と考えてる。自分のものを持って行く時は dbx 160x とかディレイやリバーブを持っていったりしていた。MXR の PitchTransposer のようなね。拘っている人なんかは1176や Tube-Tech を持って行く人もいるよ。場所によっては小屋で常設させていたりとかもあるし。ただアウトボードってコンディションにもよるから1176があってもそれシャーシャー言ってるよねとか(笑)そんな現場もある。Apollo はいいよ、いつもベストコンディションの1176を使えるからね(笑)。

- デジタルミキサー内蔵のエフェクトとアウトボードを使い分けをどのような視点で見極めていますか?

ミキサーに入ってくる音は全て大事だけどその時々のプライオリティーというのは必ずある。デジタルミキサー内蔵のコンプ、コンパウンダー、ディエッサーだと80点、90点までは出せるけど、もう少し攻めたいと思うとき攻め切れない事も多い。今はアナログエミュレーションエフェクトが入っている卓もあるけどそれぞれ個性があるので短時間で上手く攻めきれなかったり。スタジオワークでアウトボードしか無いころからやってきた世代だから、使い慣れて効果がある程度読めるものをそのまま現場で使えるのは有利だよね。UADプラグインの FATSO.Jr なんかを使うとベースとかはブンって出てくるし、Tube-Tech CL 1B Compressor を入れると存在感から変わってくる。昔のアウトボードはクセがあってさ、Lexicon はやっぱり Lexicon の音がするし、管楽器にはやっぱり AMS RMX16 だよね〜とかあるんだよ。それをラックひとつでパソコン繋いでできるって本当にドラえもんみたいな話(笑)。UAD-2 はどんな卓を使うときも同じ様に使えるという意味でも良いんだ。

- ディレイは好きで決められているものとかありますか?

ディレイは長い事 Roland SDE-2000 を使っていたよ。それも今となってはニュアンスが出せてタップでテンポが取れる方が楽なので Line 6 の DL4 とかのコンパクトエフェクターで飛ばしものをやったりしてる。SDE-2000 は意外に重たいんだよね、1Uなのに(笑)。TC Electronics の D-Two も使うかな。今回はTCの Flashback X4 を使ってる。このディレイは賢くてフィードバック中にタイム変えてもピッチが変わらない。DL4とTCは現場によって使い分け。先の話と同じでデジタルミキサー内部にもディレイは入っているんだけどそれでやるとね、なんだか抜けてこない事が多いんだよね、何故かはわかんないけど。やっぱりリバーブ、ディレイとかはアウトボードで繋げておくっていうのはデジタルミキサーを使う場合では必須かな。Apollo があればリバーブに Lexicon 224 Digital Reverb とか、AMS RMX16 Digital Reverb が使えるから表現の幅が広がるよね。

- スタジオワークとライブサウンドの違いをどのように考えられていますか?

似ているけど、レコーディングでは良しとしていたことが、PAではダメだったりとかすることなんかもあるしその逆もある。レコーディングというのは(誤解を恐れずに言えば)器が決まっているので音を叩いて、潰して詰めこんでいる。最近はこの行き過ぎはあまり好ましくないと言われているところではあるけれども、PAは無理に叩いて詰め込む必要は無い。レコーディングで音を詰め込める大きさをコップとすると、PAは樽とかドラム缶くらいの大きさだったりする。つまり大きい音は大きく、小さい音は小さく表現出来る。そんなダイナミクスレンジがある中では表現する方法や音作りの仕方は変わってくる。ただ、レコーディングでの技術がPAミックスでも応用出来る場合も多いので自分としてはスタジオで養ってきた感覚も持ちながらPAにも応用したり。それぞれの良いところを取ってベストを考えるという感じかな。

- 今日のセットアップを教えていただけますか?

今回の編成は、本人のボーカルに加えてバンド5人にシーケンスが入っている。メインボーカルのインサートに Tube-Tech CL 1B Compressor を入れてる。CL 1B を入れておくと掛けた感じがしないのにレベルはかなり揃える事が出来る。すごく自然に掛かってくれる上、とても扱いが楽になるんだよね。その後で卓の方でCOMPを浅めにレシオはガッツリ、ピークが暴れないようにリミッティングしている。CL 1B はスタジオワークでも良く使ってたアウトボードだよ。2,3chのエレキとウッドのベースにはそれぞれ FATSO Jr. を入れているけど、ふだんベースにはいろんなことを試してて会場によっては Softube Bass Amp Room を混ぜることもあるね。4chは、ボーカルのリバーブに Lexicon 224 Digital Reverb を入れてステレオアウトから出して卓に返してる。単純な使い方をしているよ。7、8chには録音用に送る2ミックスに Neve 33609 と Precision Limiter を掛けてレベルオーバーしないようにしてる。ライブが終わってステージの上の人やスタッフからとりあえず今日のラインだけちょうだいと言われたときになんとか聴ける状態で渡せるようにしておくんだよ。基本的にはラインとエアを混ぜて臨場感のある状態にして渡すけど、ツアー現場だとそうもいかないことも多い。ラインの音はある程度コンプを掛けないと実際の外音とかけ離れている事が多いからその為の工夫だね。

- PAで使うUADプラグインは決まってきていますか?

毎回決まり事はなくて、現場に入ってリハーサルやっている間に色々試して、その人に一番合うものを選んでる。Apollo だと、リハーサルの際にアウトボードを沢山持ち込む必要もないからさ(笑)。色々コンパクトになったことで音に対して貪欲になれるよね。おかげで色々な事にトライ出来ている今の状況にはすごく満足しているね。

- 新しい Apollo 8 はもう試されましたか?

Apollo 8
Apollo の新しいモデルはとても興味がある。ブラックパネルがまずそそられる。(笑) 音質に関しては現状でもまったく不満は無いのだけれど、更に良くなったと言われるとどうしても手を出したくなってしまうよね。PAの現場ではもはやデジタル卓が主流になってしまった。アナログ卓にはアナログ卓の良さもあるのだけれど、それを嘆いていても仕方が無いので与えられた環境でどうやれば自分のやりたい事が出来るのかを日々模索して満足のいく音を求めていくしか無い。Apollo をUADプラグインのアウトボードを使用した音作りができるのは素晴らしい事。新しいモデルも今後出てくるであろう新製品も Universal Audio からは目が離せないですね!

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【DUB MASTER X】

一発で彼の音と分る個性的な音作りをするが、そのバランス感覚は絶妙で、歌謡曲からクラブのフロアーを揺るがす音作りまで何でもこなすサウンド・エンジニア&DJ&クリエイター。ごく初期のMute Beat時代からダブ・エンジニアとして参加し、全ての作品に参加。Mute Beat解散後は“Dub Wa Crazy”シリーズ で7インチ・シングルを10枚リリース(後に全曲を収録した同名の2枚組CDをリリース)。92年にはファースト・アルバム『Dub Master X』を皮切りに『Dub Master XII』『Side Job』をリリース。また藤原ヒロシとのLuv Master X名義のアルバム『L.M.X』も93年にリリース。Dub wa SelfRemixシリーズを始めアンダーグラウンドでの活動をしながら00年には『Dub’s Music boX』を、2009年には『Dub Summer Pop』をリリース。2010年には鬼才リミキサーユニット[Moonbug]に加入。

リミックス・ワークとして浜崎あゆみ、倖田來未、Every Little Thing、globe、鈴木亜美、Do As Infinity、華原朋美などエイベックス作品を多く手掛ける傍ら、ヤン富田、いとうせいこう、Pizzicato Five、ムーンライダース、The Blue Hearts、コレクターズ、キリンジといった玄人好みのミュージシャンの作品にも多数参加。既に本人でさえ数え切れないほどの作品に関わっている。PAエンジニア・レコーディングエンジニア・リミックス・プロデュース・アレンジ・プログラミング・DJ・舞台音響等々、活動も多岐にわたる。

近年は再度PAエンジニアをメインに活動中。DefTech・SUGIZO・柴咲コウ・m-flo・かせきさいだぁ・小島麻由美・THE MAN ・ SOUR ・ Heavenstamp・ KanekoNobuaki等のFOHを担当している。



inteviewer & photo : Ryuji Seto