タイミングを補正する
ミュージックビデオやCMを見ていて「どうも重いなぁ。」と感じたり、歌や踊りを見ていて「この人リズム感悪いな。」なんて感じる事がある。もちろん本人のリズム感が本当に悪いのかも知れないが、それが編集のせいだとしたら一大事だ。それにもし本人のせいであったとしても、それを編集の腕で救ってあげられたらちょっとかっこいいね。後、ドラマ等でアフレコをした場合、口の動きと微妙にずれて外国ドラマのようになってしまうのも、度が過ぎると芝居の臨場感を損なってしまう。明らかにズレてる場合は別として、ほとんどの場合±数フレームの差で補正してやる事によって作品クオリティは別物に向上する。もちろんこれには編集する人にも緻密なリズム感が要求されるが、こうして数フレームの調整をやり、試行錯誤を繰り返す内にそれも身についてくるはずだ。確かに地味で根気のいる作業だが、実はVegas、この作業が他のNLEソフトに比べて格段にやりやすい。例えば二時間ドラマの全編なんてできないだろうが、キーポイント(アップで口の動きがはっきり認識できるカットとか)でこの作業を丁寧にやるには最適なソフトなのだ。
ミュージックビデオで音に画像を合わせる
ミュージックビデオにおいては言うまでもなく音楽のタイミングは変えられない。いかに音楽に合わせて映像をコントロールするかという事だが、他でも述べているようにまずは撮影時にできるだけ緻密な同期をとっておく事が重要だ。ポイントを整理しておこう。
1. モニター環境を整える
演奏者にもしっかり聞こえ、且つリファレンス用にカメラにもしっかり入るように現場で鳴らす音にも気をつけたい。特に今回のタイミング補正は1フレーム単位の緻密な物になるので、ちょっとした距離から生まれる遅れや反響音が影響してくる。カメラにも演奏者にも直接的な音が届くような工夫が必要だ。歌手とカメラに距離のある時はマイクやスピーカーを引っ張ってでも同じタイミングの音を拾っておくと後の作業が格段に楽になる。
2.できるだけ本気で歌ってもらう
レコーディングやライブの時と違って、同じ曲の同じ部分を何度も歌う必要があり、さらに演出やダンス等、やる事が多い分、どうしても演奏に集中できなかったり、ロケ場所によっては大きな声を出すのむずかしい事もあるだろう。それでもできる限り音源をレコーディングした時のボルテージを再現してもらうように心がける。これは表情の違和感をなくす為でもあるが、実際タイミングも違ってくる。特に声を伸ばす所、切る所の違いはしっかりチェックしておかねればならない。撮影側も事前に音源をよく聴いておかなければならない事はもちろんだが、ミュージシャン達もレコーディング時のボルテージを思い出す必要があり、時には撮影を止めて一緒に聴きなおす事も有効かもしれない。また、繰り返しを続けるとどうしても同じ緊張感が保てなくなるので進行にも気を配ろう。
さていよいよここからが本番だ。まず大前提なのは編集中の映像モニターだがこのような緻密なタイミング補正を行う時には当然フルフレームで再生されていなければ最終的なジャッジはできない。Vegasの場合それは得意中の得意だが、逆にオートで変化するフレームレートには目を光らせておくべきだ。もしフルフレームが維持できない場合はレートを落とすのではなく画質を落としてでもリアルタイムを維持できるようにプレビューを調整する。

また、外部モニターを使っている人はインターフェイスやモニターの性能によって画像に遅れが生じる事もあるので、あらかじめ手拍子等の映像を使って自分のシステムのチェックをしておかなければならない。もし遅れが何フレームか分かっていれば編集後にそこの部分だけを前にずらせばいい訳だが、ここはタイミング優先で画質や色は二の次なのでPCのモニターを基本に進める方が安全だろう。
今回使用している素材は倉本夏希さん(http://ameblo.jp/shineway/ )の『リボン』という曲のミュージックビデオで、その中から「君が口ずさむ調子はずれのモーツァルト」という歌詞の部分のリップシンクをとってみようと思うが、彼女は決してリズム感が悪い方ではないのだがどうしても音に反応して歌う時にはいくらかの遅れは出る物で、更に撮影現場がホールという事もあって音楽の残響も邪魔して少しずつ遅れているようだ。まずは大雑把に「君が口ずさむ」という部分を合わせようと思う。撮影素材の方の音をミュートし、オリジナル音源しか聞こえなくしてこの部分の頭とおしりに正確にマーカー(M)を打っておく。この時注意する点は横の倍率を充分広げて正確に打っておく事と、おしりの方は次の言葉の頭(「調子はずれ」の「cho」)で打っておくようにする事だ。

「調子」の「ちょ」という音は「ch」という子音と「o」という母音に分かれるが必ず子音の前でマーカーを打つ為に1フレーム単位でインジケーターを動かす(Alt+←→)。Vegasの場合、表示の拡大率に応じて矢印キー一回で進む幅も変わるので写真に見られるくらい拡大してやればAltキーを押さずに矢印キーだけでフレーム以下の細かさでロケートする事も可能。より正確なマーカーを打つ事ができる。次に撮影素材の方も同じタイミングを探す。今度はオリジナル音源をミュートし、素材の音だけが聞こえるようにする訳だがこの音はあくまで参考程度に考えて正確には画像の方でポイントを探す。
これもやはりフレーム単位で動かしながら主に口の形で判断していくのだが、「君が」の「ki」というのは「k」という子音と「i」という母音がほぼ同じ口の形をしている為、非常に分かりにくい。さらにここの歌いだし前に彼女がにっこり笑っていたという悪条件(?)も重なり見つけ出すのに大変苦労した。上の二枚の写真は連続するフレームなのだがちょっと違いは分からないだろう。しかし矢印キーを使って往復してみたりすると口の中でわずかだが舌に動きがあるのが分かる。このあたりはさすがに経験と試行錯誤が必要な部分だが、他にもちょっとした肩の動きや目の開きから判断する事もある。こうしてポイントを見つけたら今度はそこで分割(S)する。

同じように「cho」のポイントも見つけ分割するのだが、こちらは「ch」と「o」の口の形が違う為、比較的簡単に見つかった。
次にこの分割した部分をオリジナル音源に打ったマーカーの範囲にマッチングさせるのだが、この作業では伸縮等も使う為、必ず新しい別のトラックで行う方が無難だ。もちろんリップル編集はオフだ。とりあえず頭のマーカーに合わせて配置する。そして最終的には分割したポイントを正確につなぎ合わせる必要があるので前後のリージョンには触れないよう気をつけよう。






最後に、この曲のエンディングでオリジナル音源では声が伸びている所を早めに切ってにっこりしてしまった所があったので伸ばしてみた。これはチェックミスという訳ではなく、その笑顔がとても良かったのでオーケーを出したのだが、それもこれくらいの長さなら編集で伸ばせるという計算ができたからである。見て分かるように、声の切れる所にマーカーを打ちそこまで「o」の顔を引っ張ったのだ。編集技術をしっかり持っておけば撮影にも余裕が生まれる。
エンディング補正前↓

エンディング補正後↓

